ある一人の心臓外科医から後輩に贈る

さて、そろそろ上がりに近づいた、しかし未だ現状に満足していない一人の外科医として後輩に伝えられることは何か、そして、それを考える前に自分がどうして外科医としてここにいるのか振り返ってみた。
 今でこそ、自分は心臓外科医でござい、と称してはいるが、どの程度心臓外科医に思い入れがあったかというと、はなはだこころもとない。今も思い出すが同業であった父親をみるにつけ、このままでは自分はまともな社会人として、 現代の競争社会を生き残っていくことは到底難しい、これは頑張って医者になるしかないな。そんないわば追いつめられたような思いが医学部に入る最も大きな動機だったような気がする。
 結論を先延ばしにするかのように心臓外科の世界に入ってからも、いつ一般外科に変わろうか、いつ内科に転向しようか、と最初の頃はこの閉塞感のある世界から足を洗うことばかり考えていた。 だからこそことあるごとにドロップアウトの誘惑に負けそうにもなった。その時、支えになったのは自分の不器用なまでの諦めない心であった。こう言えば聞こえはいいが、実は行動を起こすことが面倒であっただけかもしれない。
 先を見通せない、計算高くない無骨な生き方、それは心臓外科医ではなかった父が教えてくれた、心臓外科医にとって最も大切な資質であったろうと思う。  一流の心臓外科医に求められること、それは「ここは誰にも負けないぞ」という得意分野を持つこと、それによって得られる循環器内科医の信頼が重要なことだと思う。
 良い手術をするために必要なこと、それは外科医としての優れた腕、的確な判断力、 必要な知識、確かな情報を得ることは当たり前のことであり、手術をすすめていくうえで最も大事なことは想像力、そして良い手術をみて真似する力と自分の型にあてはめ修正する力であろうと思う。
 その先には、ひょっとしたら自分だけの新しい術式を生み出し、歴史に名を刻むようなことが起きるかもしれない。